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新規就農 二人三脚 きゅうり生産者 坪井ファーム〈北海道長沼町〉

畑違いの仕事から、農家を目指す。
新規就農はラクな道ではありません。
作物を育てるための技術習得はもちろん
農地の取得、資金の確保、販路の開拓、
周辺農家との関係づくりなど
行く先にはいくつものハードルが
待ち受けています。

それでも
農の道を歩むことを決意した
夫婦二人の10年間を
ちょっと振り返ってみましょう。

夫婦それぞれの道が 農業で一つに重なる。


もの静かに着々と仕事をこなす「ひでくん」こと坪井秀貴さん。明るくエネルギッシュで、スタッフから「のりちゃん」と親しまれる紀子さん。二人は2014年に就農し、今年で7シーズン目を迎えます。
ともに京都での大学時代に知り合い、卒業から6年後に結婚。アパレルの販売員として働いていた秀貴さんは、それを機に家族のあり方を考えるようになります。とはいえ転勤の多い仕事。10年後はどこに住んでいるのかも分からない生活を続けることに疑問を抱き、大地に根を張って生きる農業にひかれていきます。

一方の紀子さんは世界的なカフェチェーンの店長としてやりがいを感じながら働く毎日。売上を伸ばすと同時に「お客さまに喜んでもらう」店づくりに情熱を注いでいました。だから秀貴さんから「農業をやりたい」と打ち明けられるまでは、自分のライフプランに農業の「の」の字もなかったそうです。戸惑いはあったでしょう。ただ、いずれは組織に属さず自分で何かをやりたいという夢も漠然と持っていました。紀子さんは秀貴さんの思いを受け止め、二人は3年後にそれぞれの仕事を辞めて就農に向けた準備を始めます。

2012年春、家族が移り住んだのは紀子さんの故郷・苫小牧市からも近い長沼町。研修先は、同じく異業種から転身した「新規就農の先輩」であり、アスパラ名人として名高い押谷行彦さんの農場でした。「甘いことは一切言わない」師匠のもとで2年間の研修を受けた秀貴さんは、その教えを素直に吸収していきます。そして幸運なことに農地が見つかり、当初の計画通り就農にこぎつけます。独立に際して師匠から言われたのは「毎年ハウスを3~4棟建てること」「助成金のリミットである5年以内に経営を安定させること」でした。
秀貴さんが目指したのは師匠と同じ、アスパラを主体としたハウス農家。1年目は土づくりを兼ねて全量とうもろこしを植え、いよいよ本格始動となる2年目になり、秀貴さんはアスパラと同時に「当初は作る予定のなかった」きゅうりの栽培を始めます。それは先輩農家からのアドバイスがきっかけでした。

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坪井秀貴さんは岡山県倉敷市出身。紀子さんは苫小牧市出身。2009年に結婚し、12年に長沼町へ。現在は3人の男の子を育てながら、きゅうりをメインに生産しています。

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現在20棟のハウスが並ぶ坪井ファーム。16棟できゅうり3700株(黒サンゴ200株含む)を栽培。

アスパラは植えてから収穫までに3年かかります。つまり2年間はお金を生みません。そこで1年目から「お金になる」きゅうりを育てて資金を回しながら規模拡大を目指すことを提案してくれたのです。アドバイスを受け入れながらも、当初は「正直、それほど興味はなかった」と明かす二人。けれどもきゅうりと正面から向き合ううちに、手をかけるほど成果の上がるきゅうりの面白さにドはまりしていきました。

この前後、農家としての成長と並行して家族にも変化がありました。就農の年に2人目のお子さんが生まれたのです。二人三脚で始めた農場でしたが、子育てをしながらの畑仕事には限界がありました。2年目の春、地域の子育て支援センターで紀子さんが「パートさんを探してるんだよね」と親しいママ友に話すと、「だったら私、やりたい」と手伝いを志願してくれました。現在、選別・管理作業の主力として活躍する日勤の3人のパートナーはそんなママ友のネットワークでつながった同世代の女性たちです。従業員としてはもちろん、子育ての悩みを相談したり、地域活動をフォローし合ったりと、公私にわたってかけがえのないパートナーになっています。「自分たちは本当に運が良い」。取材中、秀貴さんは何度もこの言葉を繰り返しました。「研修先に恵まれ、地域の方々に恵まれ、パートナーさんに恵まれ…。こうしてなんとかやっています」。

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ピーク時は1日で約8000本を収穫。

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収穫は早朝4時から始まります。

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しっかりとした「いぼ」は新鮮な証し。

師匠・押谷さんの言葉通り、2年目にハウス4棟、次の年に5棟、さらに翌年には6棟と増やし、就農5年目の18年には計19棟(内アスパラ4棟)まで順調に規模を拡大。目標の「5年以内の経営安定化」もほぼめどが付いたその年の秋、坪井ファームに試練が降りかかります。
9月5日未明。近畿地方を襲った台風21号は非常に強い勢いを保ったまま北上、北海道の西海上を通過し、朝にかけて道内各地に被害をもたらしました。坪井ファームは4棟のハウスが全壊。大きな爪痕を残します。その傷も癒えぬまま翌日の早朝、のちに北海道胆振東部地震と命名される巨大地震が発生したのです。
相次ぐアクシデントに二人は肩を落としました。どんなにツラくても泣き言を口にしない秀貴さんも、このときばかりは初めて妻の前で涙を見せたそうです。コツコツ建てたハウスも自然の脅威の前では無力でした。失意の二人にもう一度立ち上がる力を与えてくれたのは、ともに働くパートナーの皆さんでした。

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選果したきゅうりは札幌市近郊店舗の「ご近所やさい」コーナーへ。

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きゅうりの花。

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坪井家の元気いっぱい3兄弟です。

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おやつタイムはチームの結束力を高める大事な時間。

もう、二人三脚じゃない

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左から渡邉さおりさん、坪井夫婦を挟んで渡辺智美さん、間所泰子さん。「いろいろな才能を持ったパートナーさんに恵まれているので、今後はみんなが活躍できる場を作っていきたい」と秀貴さん・紀子さんは話します。

ハウスが潰れようとも、電気が止まろうとも、残ったハウスのきゅうりはグングン育っていました。そんな状況を見るに見かねて、停電中にもかかわらずパートナーが自発的に駆けつけてくれたのです。収穫作業に汗を流すその姿を見ながら秀貴さんは「自分たちだけの畑じゃないんだ」と改めて気づきました。「みんなにずっと働いてもらいたい。そのために売上を伸ばして、働き続けられる環境を築くのが自分の役割だ」。

そうして翌シーズンに4棟のハウスを再建。目標通り自走する基盤が整いました。7シーズン目の今年はさらに1棟増設。例年6月中旬に出荷が始まりますが、雪解けの早かった今季は1本でも多くのきゅうりをいち早く出荷できるよう準備が進んでいます。紀子さんはこう語ります。「きゅうりって諦めないんです。台風のあとに青々と育つきゅうりを見てハッとしました。私もがんばらなくちゃって」。秀貴さんが続けます。「農家をやっていればいいコトもあれば、悪いコトもあります。毎年必死ですが、先の見えないこんなときこそしっかりと自信を持ってお客さまにお届けできるものを作っていきます」。

「農業をやりたい」。秀貴さんのその言葉から10年。紀子さん、今あらためて何を思いますか?「京都での生活も楽しかったし、仕事も大好きだった。でも、今みたいに主人と一緒に仕事ができるのも、この環境で子育てができるのも農業のおかげ。春先はいつもドキドキワクワク。緊張感いっぱいだけど、楽しいし、何より生きているって実感するんです」。
 二人三脚で始まった新規就農の道は、たくさんの仲間とつながって力強い歩みをこの大地に刻んでいます。

坪井ファーム直伝 絶品!きゅうりの佃煮

【材料】
・きゅうり………約10本
・しょうが………2片
・鷹の爪…………1本
・砂糖……………50g
・しょうゆ………50ml
・みりん…………20ml
・酢………………70ml
・塩………………小さじ2

【作り方】
①きゅうりを薄切りにし、塩もみにして数時間置く。
②固く絞り、大きめの鍋に入れ、千切りにしたしょうが、輪切りにした鷹の爪、調味料(砂糖・しょうゆ・みりん・酢)を加えて、強火で汁気がなくなるまで炒り煮する。
③火を止めて冷まし、塩昆布を加えて混ぜたら完成。

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※半量でも作れます
※冷蔵庫で約1カ月もちます


取材・文・編集/長谷川圭介
撮影/石田理恵


坪井さんの最新情報はこちらをご覧ください。
坪井ファームさんのInstagramアカウント(tsuboi_farm)
日々変化していく畑の様子とお子さんたちの元気な姿に癒されます。


#北海道 #長沼町 #きゅうり #農業 #6月

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北海道の生活協同組合コープさっぽろの広報誌 “Cho-co-tto(ちょこっと)” です。 「安心して子どもに食べさせられるものが見つかる」をテーマに、読んでくれた人が「毎日のごはん支度や買い物が“ちょこっと”楽しくなったな」と思ってくれるような記事をお届けします。
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