
いくら 知床の海より〈北海道斜里町・丸中しれとこ食品〉
世界自然遺産・知床。
オジロワシが舞い、ヒグマが生息する
日本屈指の秘境はまた
鮭にとって最高のゆりかごでもあります。
秋、海岸そばの橋から清流を見下ろせば
流れに逆らい、懸命に川を上る鮭たちの姿を
目にすることができるでしょう。
鮭、日本一のまち(※)知床・斜里町から
今年も旬のたよりが届きます。
※斜里町は、17年連続で鮭の漁獲量日本一です
スピード勝負
第二十八北龍丸(ほくりゅうまる)の船頭であり、斜里第一漁協の代表理事組合長である馬場浩一(ばば・こういち)さん
9月下旬、斜里の港は一年で最も活気づきます。鮭の定置網漁の最盛期です。この季節に揚がるのは産卵を控えて川に近づくシロザケ。母川回帰という言葉があるように、そのほとんどはここ知床半島の川で生まれた個体です。流氷が運ぶプランクトンと、森がもたらす栄養たっぷりの水に育まれた稚魚たちは、4年間の旅をへてふるさとに帰ってきました。メスはおなかにいっぱい卵を抱えて。
午前7時、鮭を積んだ船が岸壁に着くと、にわかに浜は騒がしくなります。ライフジャケット姿のまま鮭を選別する漁師さん。せわしなく行き交うフォークリフト。ほどなく入札が始まり、行き先の決まった鮭が間髪を入れず引き取られていきます。
港からほど近い丸中しれとこ食品の工場にも、鮭の入ったタンクが届きました。作業スタートです。まずはずらっと並んだ職人さんが、メスだけを選り分けて包丁で腹を割き、卵(生すじこ)を取り出します。割いては出し、割いては出し。見ているこちらが追いつかないほどの手際のよさです。「卵はとにかく鮮度が大事」。こう話すのは工場長の佐藤方良さん。「卵も生きている、そう思ってます。いかに鮮度を落とさず処理するか。機械じゃなく、手で切るのもうちのこだわり。卵を傷つけないよう大切に扱います。手間も人手もかかるけど、これがうちのスタイルです」。
さんまやいか同様、鮭の水揚げ量も年々減少。北海道全体でピーク時の3分の1ほどに減りました
いくらの品質を左右するのは卵の熟度。河口に近づくほど熟度は増すぶん、皮(膜)が厚くカタくなります
鮭自身の熱で卵の質が落ちないよう、捕ってすぐに氷でガッチリ冷やした鮭を大急ぎで工場に搬入します
手切りで素早く腹から卵を出します。三十数名の職人さんで1時間に30トンもの鮭を処理するそうです
「卵」を感じるいくら
取り出した卵は洗浄して、機械で一粒一粒皮から外し、特製のタレに漬け込みます。「どれくらいの時間漬けるんですか?」と聞くと「1時間です」と佐藤さん。えっ、たった1時間!?「みなさん、そうやって驚きます。でも、1時間で十分。たしかに一昼夜漬け込めばタレを吸って膨らみ、歩留まりもよくなるでしょう。歩留まりがいいということは、同じ内容量の商品を比較したときに原価をおさえられるわけです。でも、うちはそれをしない。卵そのもののおいしさを味わってほしいからです」。
できたてのいくらを特別に味見させてもらいました。スプーン1杯のいくらを口に含むと、とろり濃厚な卵黄のコクが広がり、かすかに鮭節のような魚の香りが鼻に抜けます。なるほど。鮭の卵をいただいていると実感しました。取材班の反応を見て佐藤さんはニンマリ。「ね、これがうちの味です。手切りも、漬け込み時間も、すべておいしさのため。うちは町内では後発メーカーだったもんで、継続して買ってもらうにはほかより圧倒的においしくなくちゃいけなかった。試行錯誤でたどり着いたのがこの味です」。
洗浄した卵(生すじこ)をほぐすため、一つひとつ丁寧にベルトコンベヤーにのせます
ほぐし作業もかつては手作業でしたが、現在は機械におまかせ。あっという間にバラバラに
いくらづくりのキモとなる漬け込み作業。タレが均一に浸透するよう、ときどき上下を返します
後発メーカーの宿命
丸中しれとこ食品が創業したのは昭和50(1975)年。現会長・中村辰夫さんは国鉄機関助士時代に事業家を志し、27歳で飲食店を開業、さらに大きな仕事をしたいと46歳のときに同社を立ち上げ、水産業に参入しました。しかし、設備も顧客もゼロからスタートした新参者に業界の風当たりは強く、当初は誰からも相手にされなかったといいます。「いかにして追いつき、追い越すかが後発の宿命」と語る中村会長。儲けや物量を追わず、品質第一主義で次第に信頼を得ました。徹底的にお客さんの声を聞き、他社が嫌がるような細かい仕事も引き受けたといいます。「素人だったことが強み」と振り返るように、業界の慣習に従わず、顧客満足を追求。創業45年、鮭加工では道内最大手の地位を築いています。
株式会社丸中しれとこ食品の創業者であり、代表取締役会長の中村辰夫さん。昭和3(1928)年斜里町生まれ
丸中しれとこ食品の関連会社であるハッピーフーズ株式会社の常務取締役で工場長を兼務する佐藤方良さん
仕事一筋を貫く中村会長。92歳となった今も毎朝8時前に出勤し、鮭の入札を指示するなど、仕事への意欲は衰えることをしりません。「遊ぶのは後からでいい。前祝いはしない」と、どこまでもストイックです。そうした姿は佐藤さんをはじめ、多くの社員の刺激になっています。「私は68歳ですが、健康である限りまだまだ働くつもりです。目の前に人生のお手本がいますから」と佐藤さん。「マルナカグループには70歳以上の従業員がたくさんいます。みんな元気です。働き続けることで、労働力不足という現実に立ち向かっています。働きがいは生きがいです。働くことは健康維持につながり、収入が増えることで消費意欲につながります。医療費を抑え、地域の経済活動に貢献できるのだから、働くことはまちのためになるんです。会長は常々こう言います。『会社を永続させるのに必要なのは継続、これが一番。目先の損得にとらわれず、地元の魚を使い、一人でも多く雇用し、納税を果たす。そうやって少しでも地域のお役に立つことが務めである』と」。
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知床の海より、今年も旬のたよりが届きます。卵の一粒一粒を生かす技と、地域への思いが詰まったいくらを、ぜひこの機会に。
取材・文・編集/長谷川圭介
撮影/石田理恵
デザイン/佐孝優
丸中しれとこ食品のいくら醤油漬は、コープさっぽろの店舗(一部を除く)でお求めいただけます。
また、9月第3週の宅配システムトドックの「北海道応援トドック」でご案内いたします。
コープさっぽろの宅配システム「トドック」について詳しく知りたい方はこちらへ