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海を守る〈白糠漁業協同組合たこ縄部会〉

「捕りすぎたら必ずしっぺ返しを食うんだ」

柳だこをご存じでしょうか。北海道で捕れるたこといえば、足も吸盤もビッグサイズのみずだこが主流ですが、柳だこはみずだこに比べて一回りも二回りも小さなたこの種類。身はほどよく締まり、むっちりとした歯ごたえで、噛めば噛むほど旨味があふれ出します。みずだこが道内全域で漁獲されるのに対して、柳だこは太平洋沿岸地域が主な漁場。とりわけ有名なのが、釧路市のお隣、白糠町です。

白糠町を訪れたことのある方なら、見渡す限り水平線が広がる雄大な景色を思い浮かべることでしょう。白糠沖は暖流と寒流が交わる絶好の漁場となっていて、秋さけや毛がに、ししゃも、つぶ貝など、さまざまな海の幸が水揚げされます。その中でも生産額全体の4分の1以上を占める重要な魚種が柳だこです。

白糠町は昔から柳だこ漁がさかんに行われてきました。多いときには年間2381トンもの水揚げがあり、白糠漁協は「たこ組合」と呼ばれた時期もあったそうです。ところが、10年から20年スパンで漁獲量の乱高下を繰り返し、少ない年には26トンまで落ち込んだことも。「豊漁の数年後には必ず極端な不漁が訪れました。捕りすぎればしっぺ返しを食う。それが自然の理です」。こう話すのは白糠漁協たこ縄部会を率いる山田明部会長です。「かつては人を押しのけてでもたくさん捕るのが漁師の腕の見せどころでした。けれども不漁となればみんなが苦しい思いをする。厳しい現実を前に、これまでの考え方が誤りであったことに気がついたんです」。こうして1964年以降、たこ縄部会では漁獲量を確保するため、さまざまなことに取り組んできました。

その1 資源を守る

最初に取り組んだのは資源の維持・増大です。柳だこが卵を産みつけられる場所を海底に整備するため、コンクリートブロックの投入を開始しました。しかし当時は柳だこの生態もよくわかっておらず、その効果も未知数のまま。そこで75年から産卵調査を開始し、独自の産卵礁(たこが安心して産卵できるマンションのようなもの)を開発しました。また、生態調査の結果を受けて、稚だこ保護のための禁漁区を設けたり、1.8 kg未満の小さなたこは再放流するという独自ルールを設定。さらに全体漁獲量の上限を決めて各船の漁獲量を厳密に管理し、捕りすぎを防いでいます。こうした取り組みが功を奏し、近年は極端な不漁年もなく、年間500 ~ 600トンの安定した漁獲が続いています。

「手が空いたら縄さやめ。趣味みたいなもんだ(笑)」

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その2 環境を守る

たこ漁というと「たこ箱」のイメージがありますが、白糠沖は海底が泥質で箱が埋まってしまうことから、「空釣り縄」という大正時代の伝統漁法を今も受け継いでいます。これは海底に針を仕掛け、そこを通るたこを引っかけて釣る仕組みで、エサを使わないので漁場を汚染することがありません。仕掛けは縄と針、石、小さな浮き玉といったシンプルな材料で、海洋プラスチックごみの排出も最小限に抑えています。100年以上昔から受け継がれてきた漁法が、じつは現代の環境課題にマッチしているというのも興味深い話です。ただしこの漁法はとても手間がかかります。海中で針が曲がったり、糸がよれたりするので、漁のたびに「縄さやめ」と呼ばれる手入れ作業をしなければなりません。曲がった針の角度を直し、外れた針は付け直し、次回スムーズに投入できるようザルの上に丁寧に針を並べます。漁のない日は朝から晩まで、漁があった日も疲れた体にむち打って。家族や乗組員の協力を得ながら、気が遠くなるほどの数をこなします。あまりに時間と人手がかかるため別の漁法を検討したこともあったそうですが、これが白糠の海に合うやり方だからと、空釣り縄を続けてきました。それが結果的に海を守ることにつながっているという事実は、白糠の漁師たちの誇りとなっています。たこ縄部会では現在、漁具にかかった漂流ごみは必ず回収して陸に持ち帰ることを徹底しています。さらに操業が終わる春には漁師総出で回収した海底ごみの廃棄をするといった活動を行っています。

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山田さんは漁から戻り、そのまま縄さやめの作業へ。108本の針を手早く整えて1枚のザルが完成。ザル1枚を作るのに山田さんのように早い人で30分、通常は1時間を要する。

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山田さんが船頭を務める「第五十八拓洋丸」。たこ漁は12月から5月初旬まで続く。

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生きた状態で水揚げされる柳だこ。船上でオス・メスに分け、すぐに出荷される。船上でオス・メスに分け、すぐに出荷される。

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たこの水揚げと同時に海底から縄を回収し、仕立て直した縄を積み込む。

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山田明さんと奥さまの弘子さん。縄さやめのスピードは奥さまも負けない。

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誇らしげに柳だこを掲げる漁師さん。白糠では船主23名、計12隻がたこ漁に従事する。

「成長よりも維持と安定」

その3 生業を守る

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結果がすべての漁師の世界。かつては漁場に関する取り決めがなく、自由操業のため、漁場をめぐって激しい競争が行われました。たこの多い漁場では漁具の絡みや切断などのトラブルが絶えなかったそうです。船のスピードが遅い漁師は良い漁場が得られず、漁獲格差は広がり、不満が募るばかり。そのため部会で何度も話し合いがもたれました。調整は困難を極めたものの、「柳だこはみんなの資源」という思いから、2000年にくじ引きによる輪番制の採用が全会一致で決定します。輪番制とは漁場を区分けし、毎年順番に区画を割り当てる制度です。数年おきに必ず良い漁場を利用できるため漁獲格差が縮小し、漁師たちの不満も解消されました。

 白糠のたこ漁のもう一つの特徴が「協業化」です。1隻の船に船主2人(3人)が乗り合い、一緒に漁を行います。これによって乗組員の賃金や燃料代などの諸経費を節約でき、採算性が向上します。船主一人ひとりの持ち縄は減りますが、そのぶん縄さやめの作業負担も減りました。縄さやめが早く終わることで操業の回転効率が上がり、1隻あたりの漁獲量は増えたといいます。

 生き馬の目を抜く競争の世界から協働の社会へ。それが、海と向き合うなかで白糠の漁師たちが選んだ結論でした。山田さんはしみじみと振り返ります。「ここまで来るのは大変だった。でもさ、たこ漁が組合を支えているという自負もある。崩したくないのさ、プライドを」。

 他産地同様、白糠においても資源の減少と担い手不足は大きな課題です。「柳だこは近年安定した漁が続いていますが…」と前置きした上で山田さんは続けます。「今後また、大きな漁獲変動が起こるかもしれない。これからの白糠の漁業を見据えたとき、大事なのはやみくもな拡大よりも維持と安定です。身の丈にあった漁業という考え方が、これからの時代は向いているのかもしれないね」。

 伝統漁法を今に受け継ぐ白糠の柳だこ漁。海を守る漁師さんの姿を拝見し、持続可能な営みについて改めて考える取材となりました。

白糠産の柳だこは3月第3週、4月第1週の宅配システムトドックでご案内いたします。

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取材・文・編集/青田美穂 
撮影/石田理恵 
デザイン/佐孝優











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