名前を変えてバズったえのき

宮田 哲雄さんのメイン写真
宮田 哲雄さん
JA上川中央 農事組合法人ヒット

宮田 哲雄さん

愛別町産のシャキシャキエノキタケは大(赤)・中(緑)・小(青)、お好みサイズで
愛別町産のシャキシャキエノキタケは大(赤)・中(緑)・小(青)、お好みサイズで

名前を変えて売り上げ130%アップ。北海道愛別町で作られる「愛別町産のシャキシャキエノキタケ」の、名前負けしない食感の秘密と生産者のこだわりに迫ります。 取材・文・編集/長谷川圭介 撮影/細野美智恵 デザイン/佐孝優

「きのこの里」からシャキシャキ直送

鮮度こそ、シャキシャキの決め手。サイズごとに箱詰めし、収穫の翌日には全道の店舗へ。おいしいうちに、どうぞ
鮮度こそ、シャキシャキの決め手。サイズごとに箱詰めし、収穫の翌日には全道の店舗へ。おいしいうちに、どうぞ

手に取った瞬間に食感がイメージできる――。コープさっぽろのPB(プライベートブランド)商品「愛別町産のシャキシャキエノキタケ」はそんな一品です。誕生から3年、供給(売上)は右肩上がりに伸び、PB化前と比べて130%アップ。えのきのように一年中並ぶ定番商品でこの伸びは、正直かなり驚きです。 人気の理由の一つは、そのものずばりのネーミング。産地が近く、収穫からお店に並ぶまでの時間が短いからこそ実現できる「シャキシャキ」食感をそのまま商品名にしました。 でも、名前だけで「売れ続ける」商品にはなりません。リピーターが絶えないのは、食べるたびに「やっぱりシャキシャキ!」と期待を裏切らないから。そして、コープに行けばいつもそこにある安心感。この“いつもある”ことこそ、実は見過ごされがちだけど大事なポイントです。 ネーミングやパッケージは手に取ってもらうきっかけ。「また買いたい」と思ってもらうには、商品そのものが安定しておいしくなければなりません。その裏にどんな生産の工夫があるのか。今回、ちょこっと取材班は「シャキシャキエノキタケ」の生産現場を直撃しました。 * * * 人口2300人、「きのこの里」として知られる愛別町。この町で生産されるきのこ類は、道内出荷量の実に8割。えのきにいたっては9割を占めます。しかも、町内でえのきを生産しているのはたった1社。今回おじゃました農事組合法人ヒットが愛別町産えのきの全量、年間3800トンを手がけているのです。人口2300人の町から道内のえのきの9割が生まれている。そう考えると、ちょっと不思議な気もします。それでは、あのシャキシャキが育つまでを追いかけてみましょう。

手をかけ、目をかけ時間をかけて

培養(工程④)。菌糸が瓶全体に均一に広がるよう、位置を入れ替えながら管理する
培養(工程④)。菌糸が瓶全体に均一に広がるよう、位置を入れ替えながら管理する
生育(工程⑧)。ヒットのえのきは、かさが小さく、軸に甘みがあるのが魅力
生育(工程⑧)。ヒットのえのきは、かさが小さく、軸に甘みがあるのが魅力
芽出し前(右・工程⑥)と、収穫直前(左・工程⑨)。同じ瓶で、ここまで育つ
芽出し前(右・工程⑥)と、収穫直前(左・工程⑨)。同じ瓶で、ここまで育つ
収穫したきのこは、その日のうちに大勢の手で計量し、包装工程へ(工程⑩)
収穫したきのこは、その日のうちに大勢の手で計量し、包装工程へ(工程⑩)
計量後は包装機で素早く包装(工程⑩)。衛生管理には国際基準のGAPを取得
計量後は包装機で素早く包装(工程⑩)。衛生管理には国際基準のGAPを取得

えのきの生産工程は、おおまかに「培地づくり」「種菌接種」「培養」「生育」の4段階に分かれます。 まずは培地づくり。えのきは専用の瓶の中で育てますが、畑にとっての土にあたるのが、この培地です。培地はえのきを育む土台であり、栄養源でもあります。ヒットでは、トウモロコシの芯を砕いた「コーンコブ」と米ぬかを混ぜて使用。かつては木のおが粉を培地にしていましたが、この配合に変えてから「えのきが甘くなった」といいます。 培地ができたら、そこにえのきの種菌を植えつけます。室温14℃に保たれた培養室で3週間、じっくりと菌を増殖。瓶全体にムラなく菌が広がったところで、「菌掻き」という作業を行います。表面の古い種菌を取り除くことで刺激を与え、きのこ(子実体)の発生を促すのです。 ここからは瓶を発生棟へ。最初は室温14℃・湿度95%の発生室です。ジメジメとした薄暗い、まるで森の中のような環境で、3週間かけて芽出しを待ちます。芽が出たら室温6℃の抑制室へ。きゅっと身が引き締まるほどの寒さです。きのこが赤ちゃんの時期に、あえて発生を抑えてじっくり育てることで、芽の長さを均一にそろえます。「たくさん」のきのこを「一定の長さ」で育てるための、大事な工程です。 芽の長さがそろったら、室温9℃の生育室へ移動。きのこがまっすぐに伸びるよう、株のまわりを専用の紙で囲い、1週間ほどかけて仕上げていきます。ここでは温度・湿度に加えて、光や空気の流れも重要な要素。生育にバラツキが出ないよう、こまかく目を配ります。 そうして1株が350gほどに育ったら、いよいよ収穫です。収穫後はその日のうちに包装し、出荷に備えます。鍋物需要でえのきが売れる冬の繁忙期には、毎日15トンものえのきが収穫され、ここから全道各地へ送られます。 \シャキシャキエノキタケができるまで/ ①培地づくり・詰め込み:培地の材料を配合し、空瓶に詰め込む ②殺菌:高圧殺菌釜で殺菌し、培地の雑菌を除去 ③接種:クリーンな環境で、培地に種菌を植えつけ ④培養:瓶全体に菌を回す〈3週間〉 ⑤菌掻き:表面を削り、きのこの発生を促す ⑥芽出し:高湿度の環境で芽が出るのを待つ〈3週間〉 ⑦抑制:低温で管理し、芽の長さを均一に〈1週間〉 ⑧生育:生育室できのこの成長を促す〈1週間〉 ⑨収穫:軸の長さが13〜14cmになったら収穫 ※収穫後の培地は畑の肥料として再利用 ⑩計量・包装:素早く丁寧に包装して出荷

シャキシャキは一日にしてならず

「ジンギスカンに入れてもうまいぞ」。そう笑う代表の宮田哲雄さん(右)と、包装工程を管理する福井祥夫(ふくいよしお)さん(左)
「ジンギスカンに入れてもうまいぞ」。そう笑う代表の宮田哲雄さん(右)と、包装工程を管理する福井祥夫(ふくいよしお)さん(左)

愛別町でえのき生産が始まったのは1972年。コメの減反で転作を迫られた若手農家2戸が、長野県で研修を積み、栽培技術を持ち帰りました。後にヒットを立ち上げる宮田哲雄(みやたてつお)さんも1976年に稲作からえのき栽培へ転じ、菌の培養から生育、収穫、包装までの一貫生産を開始。「コメより収益性が高い」えのきにのめり込み、「これがいい」と聞けば全国を飛び回ってノウハウを吸収。儲けはすべて設備投資に回して新しい技術に挑み続けました。 町内では栽培農家が増え、1993年には38戸に。しかし本州産の参入で競争が激化し、離農が相次ぎます。「他産地に勝つには、みんなでレベルの高いえのきをつくらなければダメだ」。そう考えた宮田さんは農家8戸に声を掛け、1996年に農事組合法人ヒットを設立。共同利用できる培養センターと包装センターを稼働させ、農家が生育と収穫に専念できる体制を整えました。以降も生産技術の統一や設備の一新、コストダウンの交渉などに強いリーダーシップを発揮し、本州産に負けない高効率・高品質の生産技術を確立。離農農家の施設を引き取り、経営難の仲間を迎え入れながら、町内のえのき生産を一手に担うまでになります。2007年には「つくって終わりでなく、責任を持って販売したい」との思いから、販売会社「bヒット」を設立しました。 コープさっぽろが野菜部門のPB第1号にヒットのえのきを選んだのは、品質の良さと安定供給の実績に惚れたから。「選んでもらえて光栄」と宮田さん。「同時に全道のコープさっぽろと宅配トドックの供給を担う責任の重さも感じています。『愛別町』の名前が付いた商品が全道に並ぶのは、やはり誇らしいこと。食べてくれる人のためにつくる。その気持ちを新たにしました」。 もやしや卵のように、「いつもそこにある」ことが当たり前のえのき。けれど農産物である以上、絶対はありません。その供給を1社でまかなう責任の重さは、計り知れないもの。 365日。今日も愛別の「きのこの里」から、シャキシャキのえのきが全道へ出荷されています。